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【用語解説】歯車の潤滑/機構・環境別の潤滑

歯車の潤滑

歯車は噛合いで動力伝達を行うことから、主に次のような厳しい潤滑条件となります。

  1. 線接触のため単位面積当りの荷重が高い。
  2. すべり摩擦ところがり摩擦の組合せで、これが刻々と変化する。
  3. 軸受のような連続的な運動ではなく、断続的な運動となる。
  4. 上記より潤滑剤の油膜形成が難しく、摩擦熱が発生し易い。→更に油膜形成が困難。

ころがり摩擦が中心のピッチ点よりも、すべり摩擦が支配的となる歯先と歯元で損傷が起き易い。

従って接触荷重の繰り返しによる素材の疲れが主原因で歯面に穴があく(ピッチング)や、熱による潤滑剤の粘度低下等により油膜破断が起き、摩擦面の凝着が発生、それが歯筋方向に広がってひっかき傷となるスコーリングなどの損傷が、歯車トラブルの大半を占め、振動・騒音・発熱の問題も少なくありません。
歯車トラブルを防止するには、歯車の加工・組付精度の向上や素材の適正選択も重要ですが、潤滑剤選定においても環境や運転条件を考慮し、摩擦面の直接接触を防ぐ油膜形成を可能にする粘度が特に重要なポイントとなります。
歯車に使用される潤滑剤には、オイル、グリース、コンパウンド等があり、潤滑性を重要視すれば、給油・密封装置が煩雑になるもののオイル潤滑が優れます。オイル潤滑は密閉式歯車に多く使用され、特に高温・高速運転環境では冷却性に優れるため有利です。
しかし雨風に曝されたり、潤滑剤の垂れ落ち・飛散を嫌う開放歯車、メンテナンスできない小型歯車等には、グリースやコンパウンドが使用されます。

密閉式歯車の潤滑

【温度変化の大きい環境下での密閉式歯車の潤滑】

歯車は厳しい潤滑条件のため、非常に薄い油膜で潤滑されます。従って潤滑剤の粘度変化が敏感に影響し、低温下では粘度増加による駆動不良、高温下では粘度低下による油膜破断で摩耗・焼付きが発生し易くなります。
このため温度変化の大きい環境下で使用される密閉式歯車には、一般の鉱物油系のギヤオイルよりも粘度-温度安定性に優れる合成油をベースとしたオイル(当社製品ではスミギヤオイルSO、スミギヤオイルPG、アリビオフルード)が有効です。また同オイルは酸化安定性にも優れるため、高所設置などオイル交換がしにくい減速機等の交換期間延長にも有効です。

【固体潤滑剤の活用】

摩擦面に耐荷重性に優れる潤滑被膜を形成する固体潤滑剤(モリブデン等)を活用すれば、ピッチングやスコーリング等の歯車損傷防止に効果的です。
使用中のオイルに添加するギヤオイル添加剤は、モリブデンを高濃度に配合した製品であり、摩耗量の多いならし運転期間や急な発熱・騒音・振動など摩耗・焼付きを伴うトラブル発生時の一時使用に最適な製品です。

ウォーム歯車の潤滑

入力軸と出力軸が直交/大きな減速比が得られる/省スペース/低騒音 などの特長を持つウォーム歯車は、ネジのような噛み合いとなり、歯車の中で最もすべり摩擦の多い潤滑条件となります。従って潤滑剤の油膜形成が大変困難であり、摩擦面の直接接触による発熱・摩耗・焼付きが発生し易くなります。
このため、潤滑剤の油膜保持性が特に重要であり、最も粘度-温度安定性に優れる合成油(PAG)をベースとしたオイル(当社ではスミギヤオイルPG)がウォーム歯車には多く使用されます。

 

開放式歯車の潤滑

開放歯車は、潤滑剤の垂れ落ち・飛散を嫌うため、付着性の高いグリースやコンパウンドが用いられます。高粘度オイルベースで油膜形成能力に優れた開放ギヤ用グリースを使用すれば、ピッチングやスコーリングなどの歯車損傷防止にも有効です。

 

樹脂歯車の潤滑

金属歯車に対し、軽量、低騒音、耐食、低摩擦という特長を持つ樹脂歯車は、精密機器など多くの分野に使用され、低速・軽荷重であれば無潤滑で使用されます。しかし、厳しい静粛性等が要求される場合はグリース等の潤滑剤が使用されるケースもあります。樹脂歯車は一般の鉱物油系潤滑剤では、ひび割れ・膨潤・収縮を起こす危険があり、また大半はメンテナンスフリーで使用されるため、樹脂への影響が少なく、酸化安定性に優れる合成油グリース、また高温など更に厳しい環境下では、化学的安定性に優れるフッ素グリースが有効です。